持続可能演劇のための憲章

演劇の現場におけるハラスメントの告発が相次いでいます。

特に2022年は、身近なところでの告発も続き、私たちは、ハラスメントに対する演劇界の環境改善がまるでできていなかったという現実に打ちのめされました。

演劇は、ご覧くださるお客さまと時間を共有する総合芸術です。作り⼿である私たちの事情を、このようにお客さまにまで届くように語っていいのかというためらいもあります。しかし、もうずっと前から、演劇の現場で傷ついて、去っていった⼈たちがいることを私たちは知っていますし、無視を続けるべきではないと考えます。


そこで、私たちは、「持続可能な演劇のための憲章」を作成し、発表することにいたしました。

劇団やプロデュースユニット、演劇の興⾏の会社は、それぞれが別々の店のようなものです。その全てを束ねるような演劇の組織も存在しません。私たち劇作家にも、それぞれの団体がどのような創作過程を経て演劇作品を仕上げているのか、わかりません。

そのような中、どのような創作現場を⽬指せばいいのか、ひとつの指針になるようなものが必要だと考えました。

これは、2019年に劇作家の⽺屋⽩⽟さんと劇作家⼥⼦会。がお話しした際、「街に憲章があるように、演劇界にも『こういう演劇界にしよう』というものがあれば」とご紹介いただいたことに、着想を得ています。


2022年12⽉、旧知の劇作家に、連絡ができる範囲で憲章への賛同を呼びかけました。

ご⾃⾝の考えやご事情から、賛同するけれど名前は載せられないという⽅もいらっしゃいました。それぞれ、複雑な事情や⼼情を持つ中で、憲章に賛同してくださった⽅々に感謝を申し上げます。

この憲章への新たな賛同⼈の募集はしておりませんが、それぞれの責任において、賛同を表明していただくのは自由です。憲章に賛同しただけでハラスメントや差別がなくせるわけではありません。ですが、まず個人や団体としての姿勢を表明することにより、なにか起こったときに周囲が意見を言いやすくなり、より具体的な対策も取りやすくなるなど、大きな意義があります。そのために、劇作家に限らず、どなたでも、必要に応じて憲章をご活用いただければと思います。

なお、この憲章は 5年後の 2028年までの公開を予定しています。もし時代に合わないところが出てくれば都度修正しながら、継続して公開してまいります。


今後、憲章に書かれたことが当たり前のことになり、それぞれの現場での環境改善が進むことを願い、私たち自身もまた活動してまいります。

2023年3月1日

持続可能な演劇のための憲章

  1. 暴力・ハラスメント行為の禁止

    私たちは、稽古場や劇場など、演劇製作に関連する現場に、暴言、暴力、精神的な抑圧、性的な関係の強要、ハラスメント行為を持ち込まずに、演劇をつくります。

  2. 差別の禁止

    私たちは、関わり合う人々の、役職、経験、年齢、国籍、人種、ジェンダー、セクシャリティ、宗教、障がいを理由にした あらゆる差別 を行わず、演劇をつくります。

  3. 尊厳の尊重

    私たちは、作品のため芸術のために、他者の尊厳を踏み躙ることなく、自分の尊厳を犠牲にすることもなく、互いに尊重しあう健やかな過程を経て、演劇をつくります。

  4. 慣習のアップデート

    私たちは、自分自身の立場や権力を濫用せず、伝統や慣習を日々見つめ、改めるべきところを改めながら、演劇をつくります。

  5. 再発の防止

    私たちは、自分たちが誤りや間違いをおかした時にはそれを認め、至らぬことを正すことを恐れず、再発防止のために学びます。

  6. 安全な創作現場

    私たちは、自分とは異なる価値観・信条・信仰をもつ人々の存在を認め、精神的にも身体的にも安全な場をつくり、演劇をつくります。

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呼びかけ人

坂本鈴、オノマリコ、黒川陽子、モスクワカヌ
(以上、劇作家女子会。)

賛同人

  • 有吉朝子(劇団劇作家)
  • 石原燃
  • 長田育恵(てがみ座)
  • 瀬戸山美咲(ミナモザ)
  • 大池容子(うさぎストライプ)
  • 土田英生(MONO)
  • 鳥山フキ(ワワフラミンゴ)
  • 中島梓織(いいへんじ)
  • 長谷基弘(劇団桃唄309)
  • 羊屋白玉(指輪ホテル)
  • 福山啓子(青年劇場・劇団劇作家)
  • 宮崎玲奈(ムニ)
  • 宮野つくり(MerryCreation合同会社)
  • 山口茜(サファリ・P、トリコ・A)
  • 山田由梨(贅沢貧乏)

(五十音順)